AIを使って漫画を完成させた時、「これを販売したり、収益化したりしてもいいのだろうか」という期待と不安が同時に生まれることでしょう。結論から言うと、多くのAIツールで生成した漫画を商用利用することは可能です。
ただし、そのためには絶対に守らなければならない、いくつかの重要なルールと創作に対する姿勢が存在します。この記事では、AI漫画の商用利用と著作権に関するルールを解説し、あなたが安心して創作活動に打ち込めるよう、具体的なツールの規約から、トラブルを避けるための具体的な行動指針までを網羅的にガイドします。
第1章:知らないと危険!AIと著作権の基本ルール

この章では、AI漫画の商用利用を考える上で、すべての土台となる著作権の基本的な考え方について解説します。これを理解することが、無用なトラブルを避けるための第一歩となります。
著作権の境界線
日本の著作権法では、アイデアや作風そのものは保護の対象外とされています。保護されるのは、具体的なキャラクターやイラストといった個別の表現です。
つまり、「近未来のサイバーパンクな世界観」というアイデアに著作権はありませんが、その世界に登場する特定のキャラクターのデザインには著作権が発生します。AIで生成したものが、既存のキャラクターの具体的な表現と酷似してしまった場合、著作権侵害と見なされる可能性があります。
プロンプトと「依拠性」
著作権侵害が成立する要件の一つに「依拠性」があります。これは、既存の作品を知っていて、それに基づいて創作したかどうか、という点です。
プロンプトに特定の作品名や作家名、キャラクター名を入力する行為は、この依拠性を自ら積極的に示していることになり、非常に危険だと考えられます。
第2章:オリジナリティを確立し、著作権リスクを最小化するための行動指針

この章では、著作権問題をクリアするために、私たちが具体的にどう行動すればよいのか、その指針を提案します。小手先のテクニックではなく、創作に対する根本的な姿勢が問われる部分だと思います。
指針1:「安全なプロンプト」という幻想を捨てる
まず、「これを使えば絶対安全」というプロンプトは存在しない、という現実を受け入れることが大切です。AIは、学習した膨大なデータの中からパターンを見つけて絵を生成します。
そのため、どんな生成物にも、既存の何らかの作品の面影が宿る可能性は常に付きまといます。プロンプトの役割は、完成品を出力する魔法の呪文ではなく、自分の頭の中にあるアイデアの「たたき台」を引き出すための、AIとの対話ツールと捉えるのが適切ではないでしょうか。
指針2:プロンプトは、危険を避けるための「最低限のマナー」
「安全」はありませんが、「危険」は明確に存在します。プロンプトに固有名詞や、特定のキャラクターを識別できる本質的な特徴を羅列することは、AIに意図的に特定の著作物を参照させる行為です。
これはクリエイターとして最低限避けるべきマナーだと心得ておくべきでしょう。
指針3:AIによる反復生成と修正で「オリジナリティ」を練り上げる【最重要】
ここからが、AI時代の新しい創作論であり、この記事の核となる部分です。著作権リスクを最小化し、あなたの作品に魂を吹き込む鍵は、AIで生成したものを、さらにAIで徹底的に加工・修正していくプロセスそのものにあります。
本当の創作はここから始まります。Image-to-ImageやInpainting、ControlNetといった技術を駆使し、AIからAIへと対話を繰り返すように修正を重ねていく。この反復的な試行錯誤のプロセスにこそ、作家の意図が反映され、元の生成物とは全く異なる、真のオリジナル作品が生まれるのだと思います。
指針4:描画ソフトは「司令塔」として補助に使う
では、CLIP STUDIO PAINT EXのような描画ソフトはどこで使うのか。それは、AIによる修正サイクルを円滑に進めるための「司令塔」や「作業台」としての役割です。
Inpaintingで修正したい部分のマスクを正確に作成したり、キャラクターと背景のレイヤーを管理したり、AIが出力した複数の結果を統合・整理したりと、AIに的確な指示を与えるための補助ツールとして位置づけられます。
指針5:「類似性チェック」で客観的な視点を取り入れる
作品が完成に近づいたら、一度客観的な視点でチェックする習慣も有効です。Googleの画像検索などを使い、特にメインキャラクターが既存の作品と酷似していないかを確認します。
この一手間が、意図せぬ類似という事故を防ぐ助けになります。
第3章:主要AIツール4選 商用利用ポリシーの比較

この章では、利用規約が公開されており、権利関係を比較できる主要な4つのAIサービスについて、その特徴と商用利用の考え方を解説します。
サービス名 | 商用利用の可否 | 権利の扱い(著作権) |
ChatGPT (DALL-E 3) | 可能 | ユーザーに権利が「譲渡される」 |
Midjourney | 有料プランのみ可能 | 有料ユーザーに「所有権が与えられる」 |
NovelAI | 全プランで可能 | ユーザーに「所有権が帰属する」 |
Gemini (Google AI) | 可能(自己責任) | Googleは「所有権を主張しない」 |
ChatGPT (DALL-E 3)
OpenAIの規約は明確で、生成されたアウトプットの権利はユーザーに譲渡されるとしています。権利関係の分かりやすさから、安心して利用しやすいサービスの一つと言えるでしょう。
ただし、注意すべき点もあります。OpenAIのポリシーでは、AIが生成したものであることを隠して、あたかも人間が描いたかのように見せることは許可されていません。また、生成された画像が他のユーザーのものと偶然似てしまう可能性もあるため、完全な独自性を保証するものではない点も理解しておく必要があるでしょう。
Midjourney
高品質な画像が特徴ですが、商用利用には有料プランへの加入が必須です。また、作品のプライバシーを守り、他人にリミックスされるのを防ぐ「ステルスモード」が使えるProプラン以上が、商用利用の現実的な選択肢と考えられます。
あなたが所有権を持つと同時に、Midjourney社もあなたの作品を使える権利を持つ点にも留意が必要です。
NovelAI
「あなたの作品は、完全にあなたのもの」という、非常にシンプルでクリエイター寄りの規約が特徴です。サービス側に作品を利用される心配がなく、プライバシーも標準で保護されるため、権利関係のシンプルさを求めるクリエイターには適しているかもしれません。
その一方で、規約が寛容であるということは、生成されたコンテンツに関する全ての責任をユーザー自身が負う、ということでもあります。生成物が既存の作品と酷似しないよう配慮する責任は、常に作り手側にあると考えるべきです。
Gemini (Google AI)
Googleは「所有権を主張しない」というスタンスです。これは商用利用が可能と解釈できますが、同時に「私たちは関与しないので、あとは自己責任でお願いします」という意味合いが強いとも考えられます。
自己責任が強く求められる背景として、Geminiがまだ試験運用中の技術である点が挙げられます。そのため、予期せぬ不正確な出力がなされる可能性があり、特に医療や法律といった専門的な内容を扱うテーマでの利用は規約で許可されていません。
将来的にAPIなどを通じて利用する場合には、帰属表示が求められる可能性も示唆されています。
第4章:実践編 AI漫画を安全に公開・販売する方法

この章では、ルールを理解した上で、実際に作品を公開する際の具体的な注意点を、Amazon KDPでの販売を例に解説します。
Amazon KDPのAIコンテンツ申告義務
現在、Amazon KDPでは、本の出版申請時にAIを利用したかどうかを自己申告することが義務付けられています。「AI生成」なのか「AIアシスト」なのか、実態に即して正直に申告する必要があります。これを怠ると規約違反となる可能性があるため、注意が必要です。
公開前の最終チェックリスト
あなたの作品とあなた自身を守るため、公開前に以下の項目を確認することをお勧めします。
- 利用したAIツールの商用利用規約を、もう一度自分の目で確認しましたか?
- 公開するプラットフォームの規約(AIポリシー)を確認しましたか?
- 特定の著作物を意図したプロンプトを使用していませんか?
- 生成した主要なデザインが、既存の作品に酷似していないか、客観的に確認しましたか?
- AIによる修正プロセスに、あなた自身の創作意図が十分に反映されていますか?
- 作品がAIを利用して制作されたものであることを、読者に伝える準備はできていますか?
まとめ:AI時代のクリエイターとして
AIは、私たちの創造の翼をどこまでも広げてくれる、強力なツールです。この記事で解説した著作権や利用規約のルールは、その翼を縛る鎖ではなく、あなたが安心して飛び続けるために必要な「地図」や「コンパス」のようなものだと思います。
どのツールを使っても、最終的に作品に責任を持つのはクリエイターであるあなた自身です。AIとの対話を繰り返し、自身の創作性を十分に反映させ、ルールを正しく理解し、リスクを主体的に管理していく。その姿勢こそが、AI時代のクリエイターには求められるのではないでしょうか。
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